最近の相続相談の傾向―遺産分割・遺留分トラブル編
弁護士法人Boleroの弁護士小池です。
弁護士法人Boleroは日々相続に関する相談を受けておりますが、その中で最近増えつつある特徴的な相談をご紹介いたします。なお、増加傾向にあるというのはあくまでも弁護士小池の主観に基づくものである点ご承知おきください。
最初にご紹介するのは遺産に複数の不動産を含む遺産分割・遺留分トラブルのご相談です。
ほとんどの遺産分割・遺留分のトラブルでは、遺産に不動産を含むので、複数の不動産を含む遺産分割・遺留分のトラブルでも基本的な対応方法は共通するのですが、不動産が複数の場合、不動産情報の把握・整理に手間がかかります。
遺産分割の申立人・遺留分の原告になる場合、不動産情報の把握・整理を的確に行わないと裁判所に情報が伝わらず、手続がなかなか進まない原因になってしまいます。
また、遺産に不動産がある場合、その評価額が主要な争点になりますが、不動産が複数の場合、すべての不動産について不動産鑑定をすると費用が高額になってしまいます。
そこで、不動産の評価については、鑑定対象にする否か(対象にしないものは協議により定めます)を見極め、一定程度対象を絞り込んだ上で鑑定をすることを意識する必要があります。
これらの点は一般的な遺産分割・遺留分と異なる部分ですので、ご注意いただきたいと思います。
次にご紹介するのは遺言が無効ではないか(遺言無効確認請求訴訟)とのご相談です。遺言無効に関する相談は最近特に増加しており、時期によっては対応しきれない状況にあります。
遺言無効のご相談で特徴的なのは、公正証書遺言に関する相談が多いということと、遠方からのご相談が多いということです。
公正証書遺言に関しては、自筆遺言に比べて手続の適正さが担保されているので、無効にするのは厳しいという意見が弁護士間では多いように感じますが、実際にご相談を受けて調査をしてみると、意思疎通ができない状態であったり、近親者を認識できない状態の方の名義で公正証書遺言が作成されている事例は珍しくありません。
一般的には公証人は公正証書作成に際して、遺言者の意思確認を行いますが、認知症患者の症状・その程度を医学の専門家ではない公証人が判断することは困難であり、そもそも遺言作成の連絡役になっている親族(通常受遺者)から、遺言者が認知症であることを知らされていないこともあります。
そのため、遺言作成時に、公証人が遺言者に1度会っただけでは、遺言能力等を判断しきれない側面があります。
また、公証人は、正当な理由なく公正証書作成の依頼を拒絶できないとされ、公正証書作成の嘱託に対する受託義務を負っています(公証人法3条)。そのため、遺言者の遺言能力に疑問がある場合でも、嘱託時に遺言能力がないとまでは判断できない場合は、遺言者が遺言を作成する権利を尊重して受託し、最終的な有効無効は、裁判所の判断に委ねるべきとの公証人の意見もあります。
このような前提で作成された遺言については、むしろ積極的に遺言無効確認請求訴訟において遺言の効力について争うことが求められているのであり、「公正証書だから」との理由だけで遺言の無効主張を断念するのは適切ではないと思います。
高齢化社会の進行と遺言作成が一般化するに伴い、今後、遺言の効力に関するトラブルは増加すると予想されます。もし、公正証書遺言がでてきた場合は、このような点を念頭に対応をご検討ください。
最後に遺言の解釈に関するトラブルをご紹介いたします。
遺言の解釈というと、故人が作成した自筆証書遺言の内容があいまいなため、その解釈が紛争になるということが典型でしたが、最近は公正証書遺言の解釈が争点になる事例が散見されます。
公正証書遺言の場合は、自筆証書遺言と違い、文言があいまいで解釈が分かれるということは事実上ないのですが、遺言作成後に遺言の対象になった財産が処分されその対価(売却代金等)の扱いが問題になった事例、遺言により遺贈されていた財産について、受遺者が遺贈を放棄したため、その財産の帰属が問題になった事例など、遺言作成後の事情の変化を遺言の内容とどのように調整するかという問題点が生じています。
遺言作成から相続開始までの期間が長ければ、遺言作成の前提となった状況がかわり、事実上、遺言の内容と相反する対応がされることが増えてきます。遺言の作成が一般化し、高齢化社会が進むにつれて、このような公正証書遺言の解釈の問題は増えると思われます。
以上、最近の特徴的な相続に関する相談事例をご紹介いたしました。
相続トラブルでお困りの方は、遠慮なく弁護士法人Boleroにご相談ください。