無効な自筆証書遺言に基づき相続分を決定し代償分割を行った事例

記載の解決事例は旧法事例となります。

事案の概要

・相続人は、被相続人(夫婦ともに被相続人です)の次男、三男及び長女、被相続人の長男の息子と長男の配偶者です。
・平成17年に被相続人(夫)が亡くなり、その遺産分割が未了のまま、平成26年に被相続人(妻)が亡くなりました。
・遺産は長男の配偶者が住んでいる建物(未登記、ただし、固定資産の課税台帳によれば被相続人・夫と長男の共有名義)と畑(被相続人・夫名義、約600坪)です。
・被相続人・夫は、本文をパソコンで打ち込み、手書きの署名と実印が押印された「遺言」との題名の付された文書を残していました。この文書には、立ち会い人として、顧問税理士が署名・押印をしていました。
・依頼者(長男の息子と長男の配偶者)は、他の相続人と従前から諍いがあり、遺産分割協議を円満に行える関係ではありませんでした。

事案の問題点

・本件の最大の問題点は、被相続人(夫)が残した遺言書と題する文書が法律上の遺言としての効力がないことでした。
・建物については、固定資産課税台帳上は長男が2分の1の持分を有するとされていましたが、未登記のため他の相続人からは、建物全体が遺産に含まれるとの主張がされていました。
・土地については、相続後売却するという共通認識がありましたが、相続人が多い上に、相続人間の人間関係が良くないため、売却手続を円滑に進められるかについて疑問がある状態でした。

対応内容

・最大の問題点であった「遺言書」については、率直に法律的には無効であることを他の相続人に伝えると同時に、「遺言書」の筆跡、実印は被相続人(夫)のものであり、顧問税理士の立ち合いもあることから、「遺言書」に記載されている内容は紛れもなく被相続人(夫)の意思であることを指摘し、遺言書記載のとおりに土地について遺産分割を行うことで合意しました。
・建物については、他の相続人から多くの主張がされていましたが、いずれも明確な根拠がないことを調停委員に指摘し、最終的には、遺産に帰属するのは、被相続人(夫)名義の持分のみという結論になりました。
・土地については、共有にしたのち、共同で売却することも考えましたが、事案の問題点に記載したとおり、売却手続が円滑にすすむかについて不安がありましたので、当方が土地全部を相続する代わりに代償金を「遺言書」に定める相続分に応じて支払うとの提案をして了承を得ました。
・遺産の土地上には、他の相続人らが植えたかなりの量の植木が存在したため、遺産分割成立から3ヶ月の猶予期間を設定し、その間に他の相続人らが全ての植木を撤去することで合意しました。
・最終的に、土地建物全部を依頼者が取得し、代償金を他の相続人に支払うとの内容で調停が成立しました。
・本件では、調停成立後に、①代償金の支払い、②植木の撤去の確認、③未登記建物の表示登記・所有権保存登記、④土地の相続登記が必要でした。①については、当職が代理して送金し、②の確認も行いました。また、③及び④については、相続業務で連携している司法書士と土地家屋調査士を当職が手配し、登記も滞りなく行いました。

弁護士小池のコメント

・自筆証書遺言の要件をみたさないために「遺言」が無効になることは、実務上珍しくありません。このような場合、仮に、当該「遺言」が要件をみたしていたとしても、被相続人の真意によるのか疑問が残るようなものが多いというのが通常です(例えば、チラシの裏に不自然な筆跡で記載されているなど)。
本件の「遺言」は、自筆証書遺言の形式要件こと充たさなかったものの、被相続人の意思が明確だったため、法律とは別次元で相続人らに対する説得力があったものと思われます。結果的にはこの「遺言」の説得力に助けられましたが、徹底的に揉めた場合はどうなるか分からないという意味で綱渡りという要素が強かったと思われます。遺言の説得力は重要ですが、法律上の要件をみたしていることが前提ですので本件は遺言の失敗事案とも言えます。本件から学ぶべきは、自筆証書遺言の作成については、法律上の要件だけでなく、実印を押印し、印鑑証明書を添付するなど、後日、相続人が遺言に疑問をもたないようにしておくという点だと思われます。
・また、本件は、調停成立後に処理に弁護士が関与することで、円滑に遺産分割を執行することができる一例として参考になると思われます。
 

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