生命保険金が特別受益にあたるとの主張に対し、黙示の持戻し免除の意思表示の存在を主張して調停を成立させた事例

記載の解決事例は旧法事例となります。

事案の概要

・相続人は、配偶者、子供が9人、合計10人でした。なお、依頼者は配偶者(再々婚の相手)とその子供2人です。
・被相続人は、再々婚であり、養子を含め、3回の婚姻でそれぞれ3人の子供がいました。
・死亡時点での配偶者との婚姻期間は約2年8か月でした。
・遺産は、自宅土地建物のみでした(住宅ローンが残っていましたが団信により完済になりました)。
・被相続人は生命保険に加入しており、当初の受取人は再婚時の配偶者でしたが、被相続人が亡くなる2か月ほど前に受取人を配偶者に変更しました。
・被相続人が生命保険受取人を変更したのは、末期がんにより余命宣告されたことから、今後の家族の生活資金とすることが目的でした。

事案の問題点

・本件では、相続人が10名と多数のため、単純に遺産分割の交渉や調停を行うと、相続人間の意見が錯綜して遺産分割協議が混乱することが予想されました。
・一部の相続人から、生命保険金は特別受益にあたり、具体的相続分の算定において考慮すべきと主張しました。

対応内容

・相続人が多数である点については、初婚の子供たちから相続分を譲り受け、遺産分割協議から脱退してもらいました。これにより、遺産分割協議は、依頼者のグループと再婚時の子供のグループという構造になり、話し合いがしやすくなりました。
・生命保険が特別受益にあたるとの主張に関しては、生命保険金が遺産である自宅土地建物に匹敵する金額であったこと、依頼者(配偶者)と被相続人の婚姻期間が短期間であったことから、審判官からも特別受益にあたるとの心証が示されていました。
 そこで、生命保険金が特別受益にあたるとしても、被相続人が保険金の受取人を変更した経緯に照らし、持戻し免除の意思が黙示的に表示されているとの主張をしました。
・審判官からは、生命保険金については、一部を特別受益とする趣旨の調停案が示されました。生命保険金については、抗告審において持戻し免除の意思表示を認めてもらう余地も十分あると考えておりましたが、特別受益とされる生命保険金額に比べ、早期解決の利益が大きいと判断し、調停を成立させました。

弁護士小池のコメント

・本件の最大のポイントは、相続分譲渡により、相続人の数を減らし、2つの相続人グループによる遺産分割協議に集約したことです。これにより、特別受益に関する協議をスムーズに進めることができました。もし、相続分の譲渡を受けていなかった場合、特別受益に関する議論はかなり錯綜し、調停の成立は困難だったと思われます。
・生命保険金を特別受益とするか否かという点については、最高裁が例外的に認める判断をしているものの、これを前提とした判断事例が少ない状況のため判断は微妙だったと思われます。実際、法律上の主張の当否という面だけで言えば、持戻し免除の意思表示の有無について、家裁の審判、抗告審の判断を仰ぐという対応もありえたと思います。もっとも、抗告審まで争う場合、解決まで長期化することになりますので、最終的には、早期解決と金銭負担の増加のバランスを考慮して調停を成立させることとしました。
・本件は、特別受益が争点となる遺産分割において遺産分割協議を成立させる際に参考になる事例と思われますのでご紹介いたします。
 

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