借地権の遺産帰属性、特別受益、寄与分が争点になった事例
記載の解決事例は旧法事例となります。
事案の概要
相続関係
本件はいわゆる数次相続にあたる事案です。当初の相続人は、被相続人の長男、二男、長女の3名でした。その後、遺産分割協議が未成立のうちに、長男が亡くなり、長男の配偶者と息子が相続人になりました。
なお、二男と長女は被相続人と同居していました。
遺産の内容
本件は、被相続人の自宅の土地に設定されていた借地権が被相続人の遺産に含まれるかについて意見が分かれており、遺産の範囲に争いがある事案でした。詳細は遺産目録のとおりです。
遺言の有無
遺言はありませんでした。
事案の問題点
借地権の遺産帰属性
本件では、被相続人の自宅は借地上に建っていました。もともとは、被相続人の夫が賃貸借契約を締結して自宅を建てたのですが、同人が亡くなった後、借地権がどのように処理されたかがはっきりしない状況でした。
依頼者の方は、借地権が遺産に含まれる可能性があるので、契約書などでだれが借地権者なのかを確認したいと相手方(二男、長女)に申し入れまたが、二男からは、被相続人の夫(二男の父)が亡くなった後、二男が引き継いだとの説明が口頭で繰り返されるばかりで、契約書などの根拠は示されませんでした。
借地権の評価
借地権が遺産に含まれる場合、その評価はなかなかの難問です。そもそも、借地権については、相続税路線価における借地権割合を基礎として計算上の評価を行うことは容易ですが、現実の市場では、流通性がある地域が限られるため流通性との観点からの評価をすることが困難な場合が少なくありません(図3)。
他方で、本件の相手方(二男、長女)のように借地上の建物に居住している相続人にとっては、継続利用が目的になりますので流通性が乏しいということはそれほど深刻な問題ではありません。このような状況を踏まえ、借地権の評価をどのように行うのかが争点となりました。
特別受益の主張
本件では、被相続人と同居していた二男・長女側から、長男が被相続人から預金を生前贈与されていたとの主張がされました。
二男・長女の主張は、被相続人の預金口座から複数回現金出金がされていたこと、この出金と近い時期に被相続人が長男に金銭援助したとの趣旨のメモがあることを根拠とするものでした。
寄与分の主張
被相続人は、亡くなる5年ほど前から要介護状態にあったため、二男・長女から介護による寄与分の主張がされました。
対応内容
借地権の遺産帰属性
二男・長女側の借地権に関する主張は、明確な根拠がないことから、当方からは、①根拠となる契約書を証拠として提出すること、②提出されない場合、借地権については、遺産分割調停の対象から除外し、遺産確認請求訴訟を提起する旨を申し入れました。
上記の当方の主張を踏まえ、調停委員からも説得がされた結果、賃貸借契約書が証拠として提出されました。この契約書には、被相続人が賃借人として表示されており、相続開始後に、賃貸人と二男で賃借人を二男に変更したとの記載がなされていました。
上記の契約書の記載を踏まえ、相手方は、借地権が遺産に含まれることを認め、借地権が遺産分割の対象となることにつき、中間合意をしました。
借地権の評価
借地権の遺産帰属性が認められた次の問題として、その評価が問題となりました。
借地権の評価については、事案の問題点記載の問題があり、また、借地権の所在地も借権の流通性が高いエリアではありませんでした。
依頼者としては、借地権の取得は望んでおらず、借地権には相手方が取得するというのが現実的には唯一の分割方法という状況であり、相手方も借地権の取得を望んでいるという状況でした。
このような事情を踏まえ、借地権については、相続税申告時の評価で合意し、相手方が取得することとなりました。
特別受益の主張
相手方の特別受益の主張は、預金の出金については、預金通帳から客観的に立証がされていましたが、これは単に出金がされたということが明らかになるにすぎず、長男が出金された現金を受領したとの事実は客観的には立証されていませんでした。なお、相手方提出のメモの記載はその内容も具体性にかけており、これを根拠に長男が金銭を受領したとは到底考え難いものでした。
そこで、当方からは、出金後の履歴も提出して、出金された金銭が、後日、口座に入金されていること、国債購入に充てられていることなど、出金の使途を立証しました。また、メモについても、その証拠価値について反論し、最終的には、裁判官から、相手方の特別受益の主張は認めがたいとの心証が開示されました。
寄与分の主張
寄与分については、依頼者は、相手方の介護の内容等について不満を有していましたが、相手方が同居して介護をしたことをすべて否定するつもりはなく、要介護認定資料の提出を踏まえて、一定の寄与分を認める旨の案が裁判官から示されたことから、これを受け入れました。
弁護士小池のコメント
本件は、遺産帰属性から、特別受益、寄与分まで多様な問題が争点になりました。
遺産帰属性は、進行によっては、遺産分割調停を取り下げて遺産確認請求訴訟を提起することになり可能性もあり、手続の選択が難しいところです。本件では、事前の事実確認で、相手方の遺産帰属性に関する主張(借地権が二男固有の財産である)を客観的に裏付ける資料はないとの見通しに基づき、調停を申し立て、結果的に上手くいった事案と言えます。
また、特別受益に関しては、事情を最もよく知る被相続人が亡くなり、同居していない当方の依頼はとしては、具体的な事情を認識していないという点で反論が難しい面がありました。そこで、本件では、相手方の主張の根拠を丹念に検証して、取引履歴という客観的な資料に基づいて反証を尽くしたことが功を奏しており、この点は類似の事案で参考になると思われます。
最後に寄与分については、一定の寄与分が認められる結果となりましたが、現在の裁判所の運用では要介護認定資料等の客観的な資料によりある程度画一的に寄与分を算定することとされていますので、寄与分についての裁判所の心証開示は止むをえなかったと思われます。この点は、案件の相談段階で上記裁判所の運用を踏まえた方針決定をすることが重要になります。
本件は、遺産分割における典型的な問題が網羅的に争点化しており、遺産分割案件の解決に参考になると思われますのでご紹介いたします。
以 上