弁護士の調査により5400万円の使途不明金を立証して、遺留分1800万円を回収した事例
記載の解決事例は旧法事例となります。
更新履歴
2019年12月 7日 記事公開
2021年 1月21日 「弁護士小池のコメント」を加筆
1.事案の概要
(1)相続人等
被相続人の子供3
(2)遺産
- 自宅土地建物
- 金融資産6000万円
- 不当利得返還請求権5400万円(裁判所の認定額)
(3)遺言の内容等
- 被相続人の全ての財産を長男に相続させる(自筆証書遺言)。
(4)被相続人の生活状況
被相続人は、平成17年12月に配偶者が亡くなったのち、一人暮らしをしておりました。被相続人は、配偶者が亡くなった後、財産管理は長男に委ねており、預貯金の管理、税金の支払い、近所付き合い等をすべて長男が行っていました。
平成26年1月に被相続人が亡くなり、相続が開始しました。
(5)相続人間の協議経過
49日の席上で、長男から二男、長女に対して自筆証書遺言が示されました。その際、遺産は遺言にしたがって長男がすべて取得するとの話がなされました。
これに対して、長男以外の相続人が弊所に今後の対応を委任されました。
2.事案の問題点
(1)被相続人が配偶者から相続した財産の所在が不明であったこと
被相続人は、平成17年12月に亡くなった配偶者から遺産の大半を相続していました。この際、被相続人と相続人らは、遺産分割協議書を作成し、相続税も申告・納税しました。
当職が受任後、長男の代理人から開示された遺産の内容を確認したところ、被相続人が配偶者から相続した財産の大半が遺産として計上されていないことが判明しました。
そこで、当職から、長男の代理人にこの点を確認しましたが、詳細は明らかにされませんでした。
(2)遺産の管理経過の調査・整理
上記(1)のとおり、長男側から遺産の管理経過が明らかにされなかったことから、被相続人の生前の遺産管理経過を調査する必要が生じました。具体的には、被相続人が配偶者から相続した遺産の内容を遺産分割協議書に記載された財産の所在の管理経過を調査することになりました。
3.対応内容
本件では、被相続人の遺産の全容を明らかにするには、被相続人が配偶者から相続した財産の管理経過を明らかにすることが必要であったため、被相続人が配偶者から相続した財産に関する相続手続の資料、被相続人が亡くなるまでの取引明細をすべて取り寄せて、入出金の状況を明らかにしました。その後、取り寄せた取引明細を確認し、相続開始以前に解約されている預貯金については、解約の際の出金伝票等を更に取り寄せて、解約された預貯金の行方を調査しました。
他方、預貯金は、キャッシュカードにより現金出金されていることもあるため、出金伝票等の資料がありませんでした。そこで、取引明細から出金したATMの所在を特定して、出金時の被相続人の要介護認定資料等から、被相続人による出金でないことを明らかにしました。
以上の立証を踏まえ、裁判所から約5400万円の使途不明金(不当利得)を認定するとの心証が示され、他の遺産と併せて遺留分相当額で和解が成立しました。
4.弁護士小池のコメント
本件は、論点自体は、使途不明金(不当利得)と遺留分を請求するというものでしたので、特に法律的な論点が難しい事件ではありませんでした。
他方で、過去の財産管理の内容をすべて調査することとなったため、被相続人が配偶者から相続した際の財産の内容→その後の管理経過→解約・出金がされた際の調査と3段階の調査が必要となり、相当の労力が必要になりました。
また、調査の結果明らかになった預貯金の移動状況を一覧表に整理して、全体像を明らかにするなど、事実調査とその整理に膨大な労力が必要とされる案件でした。
本件は、管轄裁判所が遠方だったため訴訟期日は基本的に電話会議で行われましたが、電話会議では訴訟関係者が一同に会してコミュニケーションをとる場合に比べて細かな事実関係の確認等が難しい面があります。
本件の使途不明金問題は100件以上に上る出金を問題としており、細かい事実関係について協議をすることが必要となるため、訴訟期日におけるコミュニケーションを取りやすいように、裁判所に提出する書面は、電話でのやり取りの際に参照しやすいようにするなど情報共有に支障がないよう手当をしました。地味な点ですが、電話会議で細かな論点を扱う際には情報共有の円滑性は重要になります。
本件は、先行する相続に関して遺産分割協議書等の資料がある場合は、その時点の財産状況を客観的に把握できることから、これを足掛かりにして遺産調査をすることができる点で参考になる事例と思われます。