遺言無効確認請求訴訟、遺産分割調停、損害賠償請求(使途不明金)訴訟をした事例

記載の解決事例は旧法事例となります。

更新履歴

2017年11月 1日 記事公開
2021年 1月21日 「弁護士小池のコメント」を加筆

1.事案の概要

(1)相続人等

被相続人の兄弟(2名)と姪(2名)

(2)遺産

  • 自宅(土地建物)
  • 預貯金
  • 損害賠償請求権(使途不明金)

(3)遺言

  • 平成24年8月30日付自筆証書遺言
  • すべての財産を姪のAに相続させるとの内容※Aは相続人ではない。
  • 遺言執行者Bは被相続人の知人

(4)被相続人の生活状況

被相続人は、配偶者が亡くなったのちは一人暮らしをしており、平成24年4月に医療保護入院となり、同年10月に亡くなりました。

(5)遺産分割協議等の経過

相続開始後、被相続人の知人Bが、相続人らに対して、遺言(自筆証書遺言)があるとして、今後の相続手続を取り仕切ると伝えてきました。
これに対して、相続人4名のうち3名が、遺言に納得できないとして、弊所にご相談にお越しになりました。

2.事案の問題点

(1)自筆証書遺言の有効性

本件の遺言は自筆証書でしたが、遺言が作成された当時、被相続人は認知症等により判断能力が極めて低下しているとして医療保護入院とされており、遺言能力があるとは思えない状況でした。
また、遺言の筆跡も「ゆいごんしょ」との筆跡が弱々しく乱れているにも関わらず、本文は力強い筆跡であり、被相続人が自ら記載したものか否か疑問がありました。

(2)遺言無効確認請求訴訟と遺産分割調停の関係

自筆証書遺言について無効主張する場合、遺産分割調停をどの時点で行うのか等、裁判手続の前後関係が問題になりました。後記(3)の使途不明金についての損害賠償請求との前後関係も同様の問題がありました。

(3)生前の預貯金出金(使途不明金)の問題

本件では、被相続人が医療保護入院した直後の5月に、被相続人の預貯金約1200万円が解約され、使途不明になっていました。この時点では、被相続人は、日常会話もままならない状態でしたので、被相続人が預金解約をしたとは考え難い状況でした。

3.対応内容

(1)自筆証書遺言の有効性について

自筆証書遺言の作成状況を明らかにするため、カルテ、要介護認定資料等の資料をお取り寄せて検討した結果、被相続人には、遺言能力も遺言を自書する能力もなく、自筆証書遺言は無効である可能性が高いとの結論に達しました。
これを踏まえて、遺言無効確認請求訴訟を提起し、自筆証書遺言が無効であるとの判決を得ました。

(2)遺言無効確認請求訴訟と遺産分割調停の関係

遺産分割調停は未分割の遺産を分割するための手続であるため、遺産の分割方法に関する遺言が存在する場合、その遺言の有効・無効が確定しない限り、原則的には、遺産分割調停ができません。遺産分割調停のなかで遺言の効力についても併せて協議するとの方法もありますが、遺言の効力について協議で妥結するというのは難しいため、例外的な方法と思われます。
本件では、自筆証書遺言が無効との内容証明郵便を発送し、遺言執行者であるBから当職に連絡がありましたが、自筆証書遺言の効力について協議が成立する余地はないと考えられたことから、遺言無効確認請求訴訟を提起し、判決が確定後、遺産分割調停を申し立て、速やかに遺産分割協議を成立させました。

(3)生前の預貯金出金(使途不明金)の問題

生前の預貯金の出金については、出金態様を明らかにするため、預貯金の解約がなされた日の病院の面会簿を確認したところ、遺言執行者Bと一緒に外出したことが判明しました。また、預貯金の出金伝票を取り寄せたところ、被相続人の心身の状況に照らして到底記載できないような筆跡であったこと等から、遺言執行者Bが預貯金の解約手続に関与し、解約された預貯金を取得している可能性が高まりました。
そこで、被相続人の生前の預貯金出金について、遺言執行者Bを被告として不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、勝訴判決を得ました。
なお、自筆証書遺言には、すべての遺産を姪Aに相続させるとされていたことから、この遺言が有効であるとすると、相続人は損害賠償請求権を相続しておらず、原告適格がないことになります。そこで、損害賠償請求訴訟についても、遺産分割調停と同様、自筆証書遺言の無効判決が確定してから提訴いたしました。

4.弁護士小池のコメント

本件は、遺言無効確認請求訴訟、遺産分割調停、使途不明金に関する損害賠償請求訴訟といった3つの裁判手続を採りました。遺言無効が問題になる事案では、遺言が無効になれば、その後遺産分割調停を行う必要がありますので、裁判手続が2件になるのは、当初から想定されていたことでした。損害賠償請求の対象となる使途不明金の問題は、案件着手後に発覚することも多く、本件でも、当初想定しておりませんでした。

もっとも、遺産分割調停や遺留分侵害額請求訴訟において、使途不明金の問題が発生することは珍しくないことから、本件は、このような事例に遺言の無効主張が加わった派生的な事案とみることもできます。このような案件では、個々の訴訟や調停における主張立証はもちろんですが、複数の裁判手続を同時並行で処理するか、遺言無効確認請求訴訟を先行させるかなどの手続進行の判断も重要になります。

なお、本件は、遺言執行者が被告となっているため判決の効力(遺言無効)が全相続人及び受遺者に及びましたので判決の効力は統一されましたが、自筆証書遺言では遺言執行者がいない場合も多く、この場合は、相続人・受遺者を被告にする必要があります。

全ての相続人及び受遺者を当事者にしておかないと、遺言の効力が相続人・受遺者ごとに区々になってしまい、その後の遺産分割が難しくなりますので、遺言無効確認請求における被告選択にはご注意ください。

本件は、遺言無効主張をする際の手続選択の参考になる事案と思われますのでご紹介いたします。

ページトップへ
menu

無料法律相談受付中

0120-328-710

お問合わせ・相談予約

平日 9:00~17:30