収益不動産を含む遺留分事件を調停不成立後に弁護士が受任して早期解決した事例
記載の解決事例は旧法事例となります。
解決事例ダイジェスト
☑不動産鑑定を行わずに多数の不動産評価を協議して遺留分を確定
☑弁護士が代理して収益不動産の賃料・管理費用等も一括清算を実現
☑相続税の扱いも和解で処理
事案の概要
相続関係
・被相続人:父
・相続人:長女、長男、二女、三女
遺産の内容
本件の遺産の概要は以下のとおりです。
本件の遺産の特徴としては、被相続人が代表取締役をしていたA社所有の建物が被相続人所有の土地上に存在すること、遺産にA社株式が存在するなど、遺産とA社の関連性が強いことがありました。
不動産 | 自宅(土地建物)、A社建物の敷地に利用されている土地、賃貸アパート、駐車場等 |
預貯金 | 数千万円 |
株式 | A社株式 |
遺言の有無
・あり:自筆証書遺
・本件の遺言は遺産を二女以外の相続人に振り分ける内容であり、かなり複雑なものでした。
ご相談の経緯
本件の依頼者である二女は、遺留分侵害額請求後、遺留分侵害額請求調停を申し立てましたが、当事者の感情の対立が激しく調停が第1回で不成立となったため、対応を弊所弁護士に依頼されました。
事案の問題点と対応内容
遺産に関する情報整理と共有
本件の遺産は、不動産、預貯金・現金、上場株式、同族株式等があり、不動産は更に、自宅(土地建物)、A社所有の建物の敷地、賃貸アパート、駐車場など多様な種類の物件が存在しました。
遺留分侵害額請求訴訟(旧法)では、当事者が概ね主張立証を行った後、和解協議が行われるのが通例であるため、提訴時点から、和解協議を想定して遺産の情報を整理し、問題点を裁判所と共有しておく必要があります。
本件でも、第1回の期日において、和解を想定して遺産の情報の整理をすすめることを打診し、第2回期日以降も随時、遺産の情報を整理した一覧を提出し、弁論準備期日で内容及び和解の際の問題点を口頭で伝えるなどして情報共有に努めました。
不動産及び同族株式(A社)の評価額の協議
本件の遺産には複数の不動産と同族株式(A社)が含まれおり、和解協議を進めるには、これらの遺産の評価額を明らかにする必要がありました。
和解のアプローチとしては、遺産分割調停の運用に準じて個々の遺産について評価額を確定していくというアプローチと双方が個々の遺産の評価額を主張しつつこれを基礎として和解金額を提示し、金額ペースで協議をすすめるという方法が多くとられています(もちろん、これら以外の方法もあります)。
どの方法により和解協議をすすめるかは、事案の内容、各弁護士の方針、裁判所の訴訟指揮により変わりますが、本件は後者の方法で協議が進みました。
個々の遺産の評価額が争点化している場合、最終的には鑑定を行うことになります。不動産については不動産鑑定士、同族株式については公認会計士にそれぞれ鑑定を委託します。
もっとも、鑑定費用は不動産1件でも40万~50万円程度が必要であり、本件では複数の収益不動産も含まれていたことから、主要な不動産について鑑定を行うと200万円以上の鑑定費用が見込まれました。また、同族株式(A社)については、公認会計士に別途委託する費用がかかるため、鑑定を行うと相当高額な費用負担となる恐れがありました。
そこで、本件では、基本的には不動産・同族株式の鑑定は行わず、当事者間の協議により評価額を詰める方向を選択しました。
具体的な方法としては、被告側は相続税申告評価額=評価額として主張していたことから、相続税申告書の開示を受けて、①路線価の割り戻し作業、②小規模宅地の特例の適用を排除した再計算、③同族株式は純資産方式で再計算等の手当を施し、評価額の協議を進め、和解に漕ぎつけました。
収益不動産の賃料・管理費用の清算
本件の遺産には収益不動産が含まれているため、遺留分侵害額請求後の賃料・固定資産税等の管理費の処理も行う必要があります。これらの問題についても、訴訟開始後速やかに裁判所と共有し、具体的な和解条件協議の際にも収益不動産の賃料・管理費用の清算も踏まえたものであることを明確にして協議を進めました。
和解時における相続税の処理
本件では、遺言により遺産を取得した被告らが相続税を全額納付していたことから、原則的には、原告は遺留分を回収後期限後申告により相続税を納付し、被告らは更正の請求により相続税を一部取り戻すという手続が必要になります。
もっとも、このような手続きは煩雑であるため、本件では和解金の算定において相続税を考慮し、更正の請求をいずれも行わないことを合意しました。この結果、原告は相続税の納付が不要となり、和解金は税引き後の手取り額となりました。
弁護士小池のコメント
本件は不動産が多数存在し、その利用状況も賃貸アパート、駐車場、A社の敷地など多岐にわたっていたことから、鑑定費用の負担が重く、当事者間の協議により評価額の見通しを付けることが事件処理において重要なポイントでした。
この点については、相続税申告評価を修正するという比較的当事者及び裁判所にも受け入れやすい方法を提示したことで、和解の協議が迅速にすすみました。
不動産・同族株式の評価額が争点化した場合、鑑定評価の費用との関係で、基本的には鑑定を行わない、対象を絞り込んで鑑定を行うなどの工夫が必要になります。本件は、遺留分額との関係で鑑定費用の負担が重いと判断して、協議による解決を選択したものです。
遺産の評価は遺留分・遺産分割などの相続トラブルでは重要な論点になりますが、鑑定費用の捻出という現実問題があるため、評価額が争点⇒ただちに鑑定申請が困難な事例もおおくあります。このような場合の対処法は、代理人弁護士の経験値・工夫によるところが大きいです。本件は、この様な場合の対応方法の一つとして参考になると思われますのでご紹介いたします。