不動産の低額譲渡や使途不明金など生前の不適切な財産処分を考慮して遺留分を回収した事例
解決事例ダイジェスト
☑生前の低額譲渡を遺留分算定の基礎財産に算入
☑不動産評価額を鑑定により確定
☑使途不明金の問題も含めて和解で解決
事案の概要
相続関係
- 被相続人:母
- 相続人:長男(依頼者)、二男
遺産の内容
- 自宅(土地建物※賃貸併用住宅)の持分1/2
- アパート1棟の持分1/2
- 預貯金
遺言の有無
全財産を二男に相続させるとの遺言がありました。
その他の問題
ア 生前の持分売却
被相続人の生前、自宅とアパートの持分各1/2が被相続人から二男に売却されていました(売却代金は概ね建物:固定資産税評価額、土地:固定資産税評価額÷0.7)。
イ 生前の預貯金の出金(使途不明金)
被相続人の預貯金口座から、上記アの売買代金全額と年金が入金する都度、ほぼ同額の出金がされていました。
事案の問題点と対応内容
生前の持分売却について
自宅とアパートの持分が二男に売却されたこと及びその金額は、登記関係と預貯金の取引明細の調査ですぐに判明しましたが、二男側は、持分は時価で買い取ったものであり、遺留分算定の基礎財産には参入されないとの立場でした。
二男が主張する時価は固定資産税評価額を割り戻した金額(土地)でしたが、今回の土地が存在するエリアは固定資産税評価額を割り戻した金額よりも割高な金額で土地が流通していたことから、長男側からは、二男の買取金額よりも高い金額を時価とし、この時価と二男への売却金額の差額が特別受益にあたると主張しました(民法1045条2項)。
最終的には、自宅及びアパートに関する譲渡時点の時価について鑑定を行い、二男への売却金額と譲渡時の時価に乖離があることを立証しました。
生前の預貯金出金(使途不明金)
使途不明金問題については、対象となる出金を一覧表で整理し、二男側に使途の説明を求めることにより、実質的な使途不明金を絞り込んでいきました。一般的に使途の説明は、対応が遅延することや、説明内容が不十分であることが頻発します。このような場合は、裁判期日ごとに期限や対応内容を定めることで進行管理を行うことが重要になります。
不動産鑑定
本件では遺産の評価額を算定するため、不動産鑑定が行われました。一般的には合意により評価額を定めることも行われていますが、本件は不動産の持分が生前に売却されており、その妥当性も問われる状況にあったことから、合意により処理することは難しく不動産鑑定が行われました。
不動産鑑定は、①遺留分を算定するために相続開始時点の評価額、②自宅とアパートの持分の譲渡金額が妥当であったか否かを判断するために、譲渡時点の時価の2時点の時価を鑑定しました。
鑑定により、相続開始時点及び譲渡時点の不動産の時価が固まったため、和解協議の土台ができ、後述する訴訟上の和解による解決につながりました。
和解による解決
使途不明金に関する主張立証と不動産評価額が出そろった時点で、裁判所から和解勧告がなされました。和解協議において、裁判所がどの程度の心証開示をするかは事案・審理の状況によりことなりますが、本件では使途不明金についてかなり詳細な心証が開示され、具体的な遺留分額を算定しながら和解協議が進められ、最終的に和解成立となりました。
弁護士小池のコメント
本件は遺留分に使途不明金問題が加わるという典型事例でしたが、生前に持分譲渡がされており、低額譲渡の論点が浮上したとう点でレアな事例でした。
生前の不動産の譲渡は、相続税対策で行われることが多く、この場合、贈与税が発生しない限度で可能な限り低額で譲渡するという方向で不動産が売却されることが多いように思われます。税務上はこの処理で問題ないのですが、民法が定める低額譲渡という観点で見た場合、税務上は問題ない価額での譲渡が低額譲渡として問題になる場合が出てきます。複数の相続人が存在する事例においては、生前の不動産譲渡は税務上の観点に加えて、民法上の低額譲渡の問題も踏まえて判断する必要があります。
本件は実務上の事例が少ない不動産の低額譲渡を特別受益として基礎財産に算入するとの結論を導いた点で、類似事案の参考になると思われるためご紹介いたします。