遺産帰属性が争われたマンションが遺産であることを判決により確認した事例
解決事例ダイジェスト
☑速やかに調停を取下げて訴訟に移行
☑過去の経緯を丁寧に調査
☑安易な和解はせずに判決により相手方の主張を排斥
事案の概要
相続関係
- 被相続人:父
- 相続人:配偶者(母)、長女、長男(相談者)
- 利害関係人:長女の娘(自称受贈者)
遺産の内容
- 預貯金及び投資信託
- マンション2部屋
※本件で遺産帰属性が争われたのはマンション1室です。
遺言の有無
遺言はありませんでした。
事案の問題点と対応内容
マンションの遺産帰属性が争われた経緯
本件は相談者(長男)の父が亡くなってから20年以上が経過してから遺産分割調停が申し立てられたという事案です。その間、遺産のマンションには配偶者が住んでいたため、遺産分割がされることもなく現状維持という状態が続いていましたが、配偶者に後見人(弁護士)が選任されたことを契機として、遺産分割調停が申し立てられました。
この調停開始後に、長女から、遺産に含まれるマンションうち1室(マンションA)は、父が長女の娘(父からみて孫)に贈与しており、遺産には含まれないとの主張がされるに至り、遺産帰属性が争点となりました。
遺産分割調停の取下げから遺産確認請求訴訟への移行
遺産分割調停で遺産帰属性が争点になった場合、調停で協議することもかのうですが、協議が折り合わない場合は、遺産分割調停で遺産帰属性を判断することはできません。そのため、一旦、遺産分割調停を取下げて、遺産確認請求訴訟を提起し、遺産帰属性の結論を出してから、再度、遺産分割調停を行うことになります。
このように遺産帰属性が争われると、手続が面倒になるため何とか遺産分割調停内の協議で解決しようとの発想になりがちですが、協議(=話合い)である以上、調停での解決を優先するために理論上は不要な譲歩を強いられることもあります。
そこで、本件では、長女によるマンションAが遺産ではないとの主張の根拠を確認したところ、長女の主張を裏付ける客観的な根拠は見当たりませんでした。
以上を踏まえ、速やかに遺産分割調停を取下げ、長男が原告として遺産確認請求訴訟を提起しました。
過去の経緯の調査
マンションAに関する長女の主張は、被相続人が生前、長女の娘に同マンションを贈与したというものでしたが、贈与したとされる時期が20年以上前である上に、贈与契約書等の書面もなく、登記もされていない状態でした。
この時点で、贈与の主張の真偽が疑わしいのですが、遺産確認請求訴訟を早期に終了させ、再度、遺産分割調停を行うには、早めに長女の主張に理由がないことを裁判所に理解してもらう(長女の主張を考慮する必要がないと判断してもらう)ことが必要です。
そこで、断片的に残っていた当時の遺産分割協議のメモや当事者間で争いがない事実を時系列で整理し、長女の主張が不自然であるということを指摘しました。
和解協議への対応
以上を踏まえ、裁判所からは、双方当事者に遺産帰属性を認める方向での和解の打診がありましたが、長女側が容易に応じず、遺産帰属性の論点を遺産分割で有利な条件を引き出す交渉材料にする姿勢が見えたため、直ちに和解協議を打ち切り、当事者尋問を行った上で、判決(長男勝訴)となりました。
弁護士小池のコメント
本件における長女の主張(マンションAが遺産に含まれない)は客観的根拠がなく、かなりの無理筋の主張であると思われました。
しかし、長女側は、マンションAが遺産ではないとの主張に強くこだわっていたため、早期に協議から訴訟→判決の方針に切り替えたことにより、手続・協議の迷走を回避できました。調停で遺産帰属性についての協議をすると、『ここまで時間を使って協議したのだから何とかまとめたい』との心理になり、更に無駄な時間を費やす恐れがあります。このような泥沼を避けるには、ダメもとで協議してみるのではなく、協議で解決できる明確な見通しがあれば例外的に遺産分割調停で遺産帰属性を協議し、そのような見通しがなければ即座に遺産分割調停を取り下げるという発想が重要と思われます。