不動産売買において仲介業者・買主との間で生じたトラブルに対し、手付解除を主張したのち、訴訟上の和解により売買契約を解除した事案
解決事例ダイジェスト
☑手付解除を主張して買主との関係を全て解消
☑違約金請求に対して徹底的に争い、訴訟上の和解により解決
事案の概要
本件は甲が相続した不動産を売却しようと不動産業者に仲介を依頼したところ、売買契約締結後に、甲が仲介業者と買主(乙)に不審を抱くようになったことから手付解除の話をしたところ、乙から既に契約の履行に着手しているため手付解除はできないとして、契約の解除を強行するのであれば違約金を請求することを示唆されたため、甲が弊所にご相談されました。
事案の問題点と対応内容
仲介業者との信頼関係の欠如
甲は、本件で売買を仲介した不動産業者との取引実績はなく、自宅のごみ処理(いわゆる遺産整理)をきっかけに面識を持つようになり、その際、甲が自宅の売却を考えているという話をしたところ、当該業者が不動産業も行っているので、仲介をするということになったという経緯がありました。
本件の売買対象は、甲の自宅であったため、売買契約締結後、仲介業者に依頼して新居を建設し、完成後に決済を行うという流れが想定されておりました。しかし、仲介業者は想定したスケジュールに沿った準備を全く行うことができず、甲が説明を求めても納得のいく説明ができない状態でした。
このような状態で、不信感を押さえきれなくなった甲は、乙との売買契約を解除すると主張したところ、逆に乙から違約金の請求を示唆されたという経緯があります。
当職からみると、仲介業者に対する不信感が何故乙との売買契約を解除するという方向になるのか理解が難しかったのですが、よくよく事情を聞いてみると、仲介業者は乙と関係が深く、契約締結に至るまでの経過でも「乙寄り」と感じることが多々あったため、乙に対しても不信感(警戒感)を抱いていたとのことでした。
当職からは、違約金を請求されるリスクを回避するため、仲介業者を変更して乙との契約は維持するという方法も提案しましたが、甲としては、乙との関係も清算したいとの意思が強いとの考えが示され、売買契約を手付解除する方向で進めることになりました。
手付解除の主張
以上の方針を踏まえ、当職から乙に対して手付解除の通知を送ったところ、乙にも代理人弁護士が付き、①契約の履行、②履行しないのであれば違約金を請求するとの回答がなされ、乙から民事訴訟が提起されました。
履行の着手が認められるか
民事訴訟では、手付解除と違約金請求の分水嶺となる「履行の着手」の有無が争点となりましたが、一通りの主張立証が終了した段階で、履行の着手を否定する方向の心証が裁判所から開示されたことを踏まえて、訴訟上の和解で契約を解除し、本件は解決しました。
弁護士小池のコメント
本件の法律的な論点は履行の着手の有無ということになりますが、根本的な原因は、甲が仲介業者の選定を誤ったことにあると言わざるを得ません。不動産の売却にあたっては安易に業者を選定せず、信頼できる業者を見つけて依頼することが大事であるという当たり前のことを再確認した事案でした。