将来の相続を見越してトラブルになっていた隣地を購入してトラブルを解決し同時に所有地の利用価値を増加させた事例
解決事例ダイジェスト
☑長年のあいまいな利用関係を整理し問題点と要望を明確に提示
☑買取・売却の2パターンの提案で相手方にも配慮
☑迅速・簡易に買取りを進めるため老朽化した建物も購入
事案の概要
当事者関係
本件は隣接した土地A(所有者甲)と土地B(所有者乙)の利用関係をめぐるトラブルでした。
紛争の経緯
本件紛争の経緯はかなり古い時期まで遡ります。甲は、もともと土地A及び土地Bを含む周辺一帯の土地を所有しており、その土地の一部を借地として貸し、借主が自宅を建築していたという経緯がありました。
その後、乙の両親は土地Bの底地を甲から買い取って自己所有にしたのですが、その後、表通りに繋がっていた通路がマンション開発によりなくなってしまったため、甲が第三者丙に貸していた土地の通路部分を事実上利用していました。
数年前、丙が亡くなったことを契機に、借地権が丙の相続人から甲に返還されましたが、乙は、以前とかわらず通路部分を利用し続けたため、甲と乙の間でトラブルになりました。
事案の問題点と対応内容
(1)通行権の有無・内容
土地A及び土地Bをめぐる権利関係は、多数の借地権設定、底地売却、マンション建設に伴う土地売却などによりかなり複雑になっており、相談者である甲自身も正確に把握できていない状況でした。
そこで、やや遠回りにはなりますが、関係者の相続関係と周辺土地の権利設定・移転の経過を整理して、基礎となる事実関係を確実に把握することにしました。これにより、甲が所有する土地Aには、通行地役権その他契約に基づく通行権は設定されておらず、囲繞地通行権が成立する可能性だけが残ることが明確になりました。
(2)売却・買取りの提案及び売却金額・買取金額の検討
上記(1)の権利関係を踏まえて、トラブルの根本的解消のため、以下の2つの提案をすることにしました。
① 土地Aのうち乙が通路利用する部分を分筆して売却する。
② 土地Bを甲が買い取る。
上記①の提案の場合、乙は再建築不可の土地Bが接道要件を充たして再建築可能になるため、経済的にはメリットがある提案でした。そのため売却の㎡単価は近隣の取引事例を参照して決定しました。
他方で、上記②の提案における買取り金額の設定はやや難しい要素がありました。土地Bは接道要件を充たしていないため単純に考えれば極めて低額な提示になってしまいます。他方で、余りに低額の提示では乙が感情的に反応してしまい交渉が進まなくなる恐れもあります。
そこで、甲が土地Bを取得した場合、土地Aと併合することにより一体として利用価値が高まる点を加味して買取金額を提示することにしました。
(3)具体的な手続進め方
上記①及び②の条件を提示したのち、交渉の結果、甲が土地Bを買い取ることとなりました。本件では、乙は代理人がついておらず、不動産取引にも詳しくない様でした。
そのため、取引推進過程で乙が不安感を抱くことがないよう、甲側で司法書士・土地家屋調査士等の手配をすすめ、随時、状況を説明するようにし、無事代金決済、所有権移転(買取り)が実現しました。
弁護士小池のコメント
本件は古い借地権などでは頻繁にみられる事例であり、事実関係の整理を行った結果残った法律問題はそれほど複雑ではありませんでした。
もっとも、売買は合意しなければ実現しないため、どのようにして乙に売買に前向きになってもらうかという点が最重要課題であったと言えます。その点で、甲から売却・買取りの2パターンを提示し、乙が自ら②選択したという事実が、乙がその後の手続を円滑に進める意識付けに繋がったものと思われます。
トラブルは、主に法律問題と人間関係によって生じます。本件は後者のウエイトが重い事件へのひとつの対処方法として参考になると思われることから、ご紹介いたします。