マンション・収益物件について代償分割を行い、生前の預金出金について不当利得返還請求をした事例
記載の解決事例は旧法事例となります。
1.事案の概要
(1)相続人等
被相続人の配偶者(後妻)、前妻の子供、後妻の子供(2人)
(2)遺産
- 被相続人の自宅マンション
- 収益物件(アパート)
- 預貯金
- 不当利得返還請求権
(3)被相続人の生活状況
被相続人は、昭和60年に前妻をなくし、その後、再婚し二人の子供をもうけました。
前妻の子供(依頼者)と後妻は折り合いが悪く、そのため、依頼者は、被相続人とも疎遠になっていました。
被相続人は、後妻と同居しておりましたが、平成27年2月に体調を崩して入院し、同年3月に亡くなりました。
(4)遺産分割協議の経過
相続開始後、後妻から依頼者に対して、一方的に相続手続に必要な資料(印鑑証明書等)を送るように連絡がありました。依頼者は、これを拒んだところ、後妻の子供が仲裁に入りましたが、遺産の詳細が開示されないことから、弊所に相談され、当職が受任いたしました。
2.事案の問題点
(1)遺産の詳細が不明であること
当職が受任した時点では、依頼者は、後妻から遺産の開示を受けておらず、その詳細がわからない状況でした。依頼者は、被相続人と疎遠になっていたことから、遺産調査の端緒になるような情報を有していなかったため、遺産調査の端緒もない状況でした。
(2)寄与分・特別受益の主張
本件は、裁判外の遺産分割協議は困難と見込まれたことから、速やかに遺産分割調停を申し立てましたが、相手方(後妻)は、①自宅マンションのリフォーム費用の支払いを寄与分、②依頼者が一人暮らしをした際の賃料を被相続人が支払ったことを特別受益と主張し、この点が争点となりました。
(3)相続開始前後の預金出金(使途不明金)の問題
被相続人は、相続開始前後の時期に約800万円を被相続人の預金口座から出金しており、この点の対応が問題となりました。
3.対応内容
(1)遺産の詳細が不明である点への対応
本件では、相手方(後妻)に遺産の開示を求めることと、独自の遺産調査を行うことの2本立てで調査を実施しました。この場合、調査結果が重複し、手間もかかりますが、相手方から十分な開示がなされないことも多く、結局補充で調査をする必要が生じることも珍しくないため、上記のような同時並行での調査を行った方が結果的に調査が早く済みます。
本件でも、相手方からは、遺産の概要がメモで開示されたにとどまったため、同時並行の調査が有効な事案でした。
(2)寄与分・特別受益の主張への対応
相手方は、遺産分割調停において、①自宅マンション(遺産)のリフォーム費用を支出しているとして、裏付けとなる契約書や送金した通帳(後妻名義)を提出してきました。
しかし、後妻名義の預金でもその形成原資は夫である被相続人である可能性があること、自宅マンションは被相続人と相手方(後妻)二人の生活の本拠であったことからすれば、被相続人はマンションを提供し、相手方(後妻)はリフォーム費用を提供することで夫婦の生活を支えていたのであり、これらは夫婦間の相互扶助義務の履行であるから、寄与分にはあたらないとの反論をしました。
また、相手方は、②依頼者が一人暮らしをした際の賃料を被相続人が支払ったとの主張をしていましたが、そもそも、そのような事実はなく、相手方の主張を明確に裏付ける証拠も提出されませんでした。
以上を踏まえ、相手方の寄与分・特別受益の主張は排斥され、依頼者が法定相続分に相当する代償金を相手方(後妻)から取得する内容で遺産分割調停が成立しました。
(3)相続開始前後の預金出金(使途不明金)の問題への対応
相続開始前後の預貯金の出金については、生前の出金については、①相手方(後妻)が被相続人に預けていた自己の財産を回収したものであること、②被相続人の了承を得て入院費等に充てるために出金したものであるとの反論がなされ、使途が明らかにされました。
当職からは、上記①については、夫婦間で金銭の移動があってもそれだけで貸し付けと評価するのは困難であることなどを反論しました。②については、相手方が主張する使途のうち、証拠上の裏付けがあるものを差し引いた残額が預り金として残存することとし、これに相続開始後の出金を加算した内容で和解しました。
4.弁護士小池のコメント
本件は、専ら前妻の子供と後妻間で争われた事案でした。
本件で特徴的なのは、後妻側から、被相続人の預貯金の一部が後妻に帰属する(遺産帰属性)や寄与分の主張がされた点です。
通常、両親の一方が亡くなり、その配偶者が相続人であるケースでは、相続人である配偶者名義の預貯金に被相続人の財産が混入していても遺産帰属性を問題にすることは、余りありません。被相続人の子供である相続人としては、いずれ相続した配偶者が亡くなったときの相続で財産を相続できることから、あえて夫婦どちらの遺産かを明確にする必要性が乏しいからです。
ところが、本件のように、後妻が配偶者として相続人になる場合、後妻が亡くなった際の相続では、前妻の子供(依頼者)は、相続人にはなりません。そうすると、後妻名義の預金に被相続人の財産が混入しているか否かは重要な問題になってきます(寄与分についてもおおむね同様です)。
このようなことを背景として、本件では、寄与分や生前に出金された預貯金の遺産帰属性が争われることとなりました。
被相続人が再婚している場合、遺産分割が紛争化することが多いと思われます。本件は、このような事案における問題点の把握に参考になると思われますのでご紹介いたします。