弁護士が受任後、被相続人の施設入所時期までさかのぼって預貯金の取引状況を調査し、長男が預貯金約3000万円を無断で取得したことを立証した事例

記載の解決事例は旧法事例となります。

1.事案の概要

(1)相続関係

本件の被相続人は相談者の母親でした。被相続人には長男と長女、二女の3名の子供がいたことからこの3人が相続人になるという事案でした。弊所の依頼者は、長女と二女です。

(2)遺産の内容

依頼者のお二人は、被相続人と別に生活していたため、遺産の詳細は知りませんでした。そこで、長男に遺産の内容を確認したところ、預貯金が2口で約500万円との回答でした。

(3)遺言の有無

遺言はありませんでした。

2.事案の問題点

(1)遺産の内容が不明

依頼者は、長男から遺産の開示を受けましたが、預貯金があまりに少ないため不審に思い、過去3年分の取引明細を取り寄せて確認しました。そうしたところ、被相続人の定期預金が解約されていることがわかりました。
また、取引明細で開示を受けた期間は、被相続人は施設に入居しており生活費全般は施設利用費に含まれているはずでしたが、これを考慮しても毎月の出金額が多すぎる状況でした。
以上から、本件では、長男から開示された預貯金以外にも遺産が存在することが疑われる事案でした。

(2)合理的な交渉が困難

このような状況であったため、依頼者は、長男に対して、定期預金の解約や毎月の出金について事情を説明するように求めましたが、長男は激高してしまい話し合いができない状態でした。
そのため、依頼者お二人は、本件の対応について弊所に依頼されました。

3.対応内容

(1)遺産の内容が不明である点についての対応

本件は、当初、遺産分割協議がうまくすすまないとのことでご相談を受けましたが、事案を確認すると、遺産分割というよりも、生前の預貯金の使い込みの問題であるということがわかりました。
そこで、まず、依頼者が取り寄せた取引明細の内容を確認し、出金の詳細を確認しました。本件では、被相続人は介護施設に入所していることから、施設費用が口座引き落としになっているか否かで、現金出金の意味合いが違ってきます。
また、依頼者の説明から、長男による出金が疑われる状況ではありましたが、立証としては不十分な点があったことから、この点を確実に立証するため、定期預金の解約伝票、出金伝票、送金伝票等を取り寄せてその記載内容を確認しました。なお、預金が解約され、解約金が現金で交付されている場合、その場で、第三者に現金が送金されていることもありますので、送金の有無も併せて確認しておくと良いでしょう。本件でも、定期預金が解約され、窓口で現金交付されていましたが、同時に長男の預金口座に送金されていました。

以上の調査を踏まえて長男による出金額を特定し、不当利得として請求しました。預貯金口座からの出金のうち、最終的にどの程度の金額が不当利得になるかは、生活費控除、公租公課の支払等の問題があり、最初に請求をする時点では明確ではありません。
そのため、請求段階では、取引明細上支出が明確であるものだけを除外し、その他の現金出金をすべて風利得として請求し、同時に、合理的な支出について説明がされればその支出については、請求額から控除するとの対応が適当です。

(2)合理的な協議が困難であることへの対応

本件は、過去何年にもわたり行われた預貯金出金の使途が争点になることから、長男側とのやり取りは複雑な内容になることが予想されました。また、依頼者からの説明では、長男は相続の話をすると激高してしまうとのことでしたので、弊所から通知文書を送り、長男に代理人がつかないようであれば速やかに民事訴訟に移行する方針としました。

実際には、弊所から通知文書を送付した後、長男側にも代理人がつき、代理人かで交渉をした結果、生前の出金の使途について一定の説明がなされ、合理的説明がつかないものについては、長男が当方の依頼者に和解金を支払うとの内容で合意が成立しました。

4.弁護士小池のコメント

本件は、相談時に依頼者から取引明細が提供され、これをベースに使途不明金の追及が始まりましたが、その後、この明細の期間以前から不正な出金が行われている疑いが高まり、過去10年分までさかのぼって取引明細を取り直したという経過がありました。このような作業は非常に手間と時間がかかるのですが、事案の全体像をつかむためには必要な場合もあり、本件はまさにそのような事案でした(もっとも、取引明細の取得は手数料が高く、分析作業も負担が重いため闇雲に10年分を取り寄せればいいというものではありません)。 

また、本件は厳密には、受任時に残存している遺産について遺産分割をする必要があり、法的な手続としては、遺産分割調停と不当利得返還請求訴訟を行うことになります。
しかし、このような手続をとると、弁護士費用の負担が重くなるため、両者を一括して交渉で解決する方法、不当利得返還請求訴訟を先行させて、この訴訟で和解する際に遺産分割も同時に行うなどの工夫が必要です。後者の方法は、現時点の遺産が比較的少額・シンプルな場合は使い勝手のよい方法と言えます。
他方で、過去の出金も大がかりに行われ、現時点遺産も多額である場合は、不当利得返還請求訴訟と遺産分割調停を同時に行うという対応も必要になります。
このような手続選択については、当事者の方が判断するのは難しいところですので、弁護士に相談されるのがよいと思います。

最近は、生前の預貯金出金の問題の相談が増加しておりますが、本件は典型的な生前の預貯金出金の事案について、丁寧な調査による立証により交渉段階での解決が実現した事例として参考になると思われることから、ご紹介いたします。

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