預貯金の使途不明金と葬儀費用の処理を弁護士が代理して解決した事例
記載の解決事例は旧法事例となります。
解決事例ダイジェスト
☑ 預貯金の調査により使途不明金を把握
☑ 葬儀費用等は預貯金からの支出を認め柔軟に解決
☑ 弁護士が代理して不当利得返還請求訴訟を提起後、早期和解で解決
事案の概要
(1)相続関係等
・被相続人:父
・相続人:長男及び長女
・相手方:叔母
(2)遺産の内容
被相続人の生前、預貯金3口座約800万円が存在していましたが、相続開始前後でほぼ全額が親族である叔母(相手方)によって出金されていました。本件では、出金された預貯金相当額800万円が不当利得返還請求権に転化し、遺産に存在するものとして、相手方に請求しました。
(3)遺言の有無
遺言はありませんでした。
(4)その他の事情
叔母による預貯金の出金は相続開始前後に行われていたことから、一部が葬儀費用等に充てられたことが予想される事案でした。
事案の問題点と対応内容
(1)遺産(預貯金)の詳細の把握
本件では、相続人である長男・長女は、被相続人と別居しており、交流も乏しかったことから、被相続人の財産状況は把握していませんでした。
他方、相手方である叔母は被相続人の自宅近くに住んでおり、入院時の保証人であったこともあり、被相続人が亡くなる前に事実上預貯金の管理をしていたという状況がありました。
被相続人が亡くなった後、叔母から長男・長女に電話があり、被相続人が亡くなったこと、預貯金を葬儀費用にあてたいとの趣旨の話がありましたが、預貯金の具体的な金額等は教えてもらえませんでした。結局、その後、叔母から連絡はないまま、長男・長女に相談がないままに葬儀が行われました。
長男・長女は、やむを得心当たりのある金融機関で預貯金の明細を取得したところ、相続開始前に数百万円単位で出金がされていたことから、弊所弁護士に対応を依頼されました。
弊所弁護士は、受任後、預貯金の取引状況を更に調査し、相続開始前後の使途不明金の詳細を確定し、叔母に返還請求をしました。
(2)葬儀費用等及びその後の49日法要等に関する支出の取扱い
上記(1)の預貯金調査により使途不明金の特定はできましたが、従前の経緯から、その一部は被相続人の葬儀費用等にあてられた可能性がありました。
葬儀費用の取扱いについては、相続トラブルの現場ではよく問題となっており、一般的には葬儀を主催した喪主が負担すべきという考えが強いと思われます(他方で香典も喪主が全額取得します)。もっとも、本件は、被相続人は、離婚し、長男・長女との交流もないという状況にあり、相手方である叔母もやむなく喪主を引き受けたという経緯がありました。
長男・長女としては、叔母が独断で葬儀を行ったことに不満はありましたが、葬儀自体は被相続人のために行ったものであることから、葬儀費用は出金した預貯金を充当することを認めることとしました。
(3)早期解決のための手続選択
本件は、預貯金の出金の経緯が不明であるものの一部は葬儀費用等の必ずしも不当とは言えない支出にあてられている可能性があったこと、親族間の問題であることも踏まえ、まずは、代理人弁護士から使途についての説明を求める文書を送付し、交渉を行いました。
しかし、出金した預貯金についての説明が得られなかったことから、速やかに不当利得返還請求訴訟を提起しました。
不当利得返還請求訴訟に紛争解決のステージが移行していからは、争点整理がすすみ、3回目の期日で和解が成立し、葬儀費用を差し引いた残額の返還を受ける内容で解決しました。
弁護士小池のコメント
本件は典型的な預貯金の使途不明金問題の事案でした。
使途不明金そのものは、金銭問題に過ぎないのですが、その支出の背景には複雑な人間関係などがあり、感情が邪魔して合理的な解決案を受け入れることが難しい場合があります。
このような場合は、当事者間の交渉をしても本筋ではない点が争点化して、感情的対立が深まるだけですので、速やかに民事訴訟等の裁判手続に移行するのが適切です。これにより、当事者の意識も切り替わり、法的な解決がしやすくなります。
本件も弁護士が代理して民事訴訟に解決のステージを移行したことが功を奏した事案と言えます。
また、葬儀費用は、文献・ネットなどでは喪主負担との解説がなされており、この考えをすべての事案に通用するものと受け取りがちですが、法定相続人でない方がやむなく葬儀を引き受けた場合等は、喪主負担との理屈で割り切れない部分もあります。場合によっては、喪主から相続人に対する求償もあり得るところです。
本件は、長男・長女側が葬儀費用を預貯金から支出することを認めるとの柔軟な判断をしたことで、妥当な解決を図ることができました。
本件は典型的な使途不明金問題を含むと共に、葬儀費用の処理が一般的な事案とは異なる点で参考となると思われます。