弁護士の交渉により早期解決した事例:長男による遺産の管理経過を調査し、依頼者の生活状況に沿った遺産分割を実現した事例

記載の解決事例は旧法事例となります。

1.事案の概要

(1)相続関係

本件の被相続人は相談者の父親でした。被相続人には、長男と本件の依頼者である二男、長女がおり、この3名が相続人になります。

(2)遺産の内容

本件の遺産は、長男から開示されたものとしては、被相続人が居住していた自宅(土地建物、以下「本件自宅」といいます)、農地及び預貯金でした。

(3)遺言の有無

遺言はありませんでした。

2.事案の問題点と対応内容

(1)保険金の所在が不明になっていること

本件では、被相続人がなくなる1年ほど前に依頼者の母が交通事故で亡くなっており、死亡保険金が支払われていたという事実がありました。この保険金は、母の相続人である被相続人、長男、依頼者2名が取得する権利がありましたが、長男が代表者として受領したものの、その後の管理状況や残高は一切不明のままであり、被相続人の遺産としていくら残っているのかも不明の状態でした。

依頼者は、弊所に依頼される前に、保険会社に保険契約や保険金の支払い状況等を開示するように依頼しましたが、長男が反対しているとの理由で保険会社は情報を開示しないという対応でした。

そこで、弁護士から保険会社に対し、弁護士会照会を行い、保険契約の内容及び保険金支払い状況について開示を受けました。

(2)法定相続分にこだわらず現在の生活状況に応じた遺産分割を希望していたこと

依頼者は、上記(1)の保険金の問題には疑問をもっており、その詳細を明らかにしたいとの強い希望をもっていましたが、他方で、不動産については、実家の土地建物は後継ぎとして居住している長男が取得することには特に反対しておらず、長男が実家の建物を取得することについて代償金を請求する意思もないということでした。

そこで、弁護士を代理人として、保険金については、確実な立証資料を添付して正当な分割を求める一方、不動産については、長男の立場を尊重して分割する意思がある旨を明示する内容の遺産分割の提案書を作成し、長男側に提示しました。

その後、長男にも代理人がつき、保険金の使途が明示され正当な使途を差し引いた残額を分割し、実家は長男が相続することで合意いたしました。

(3)農地の取得と共有の解消

本件では、遺産として実家以外に農地が存在し、依頼者2名は、この農地を共有で取得しました。依頼者としては、最終的には農地を二等分に分筆し、それぞれ単独所有にしたいという希望でした。

このような場合の対応方法としては、

  1. 遺産分割前に農地を分筆し、分筆した農地を依頼者がそれぞれ単独で相続する。
  2. 農地を共有で相続し、その後、分筆し、更に
    1. 共有物分割
    2. 共有持分放棄

により単独所有とする。
という方法があります。

①は、後述する方法のように農地転用や贈与税の問題が発生しないため、基本的には最も適切な方法ですが、本件でこの方法をとるには長男の協力が必要になるという難点がありました。
そこで、本件では、遺産分割の成立を優先し、②の方法で解決をしました。そのうえで、本件の農地は市街化調整区域のため共有物分割を行うには農地転用の許可が必要となり、事実上分割が困難となることから、贈与税の負担はあるものの②Bの方法で対応いたしました(調整区域の後のため贈与税の額そのものは少額にとどまり、遺産分割で取得した金銭で十分にまかなうことができました)。

3.弁護士小池のコメント

本件は紛争案件ではあるものの、依頼者には、保険金については法定相続分を主張し、不動産については法定相続分にはこだわらないという希望がありました。

実務上、金融資産については分割が容易なので法定相続分で分割したいが、不動産はその家族特有の事情があり柔軟に分割したいとの希望もめずらしくありません。紛争案件を扱う弁護士としては、交渉は高い条件から提示するとの考えで交渉しがちですが、本件のような事案でこのような対応をすると長男側が態度を硬化させて、紛争が激化する場合があります。したがって、このような事案では、最初の提案におけるさじ加減が重要になります。

本件は相手方代理人弁護士の説得もあり、上記のさじ加減がうまく功を奏した事案と言えます。弁護士に依頼というと徹底的に争うというイメージを持つ方も多いかと思われますが、法定相続分にこだわらない柔軟な分割においても弁護士が代理人として交渉する意義があるという点で参考になると思われることからご紹介いたします。

 

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