遺産分割調停を利用して多数の相続人の意見調整を行い、不動産売却・預貯金の分割・分配を実現した事例
記載の解決事例は旧法事例となります。
解決事例ダイジェスト
☑ 遺産分割調停で多数の相続人の合意形成を実現 ☑ 遺産分割調停の手続中に同時並行で不動産(遺産)を売却 ☑ 預貯金を解約して全相続人に分配 |
事案の概要
相続関係
① 被相続人:相談者の弟
② 相続人:被相続人の兄弟及び甥姪(代襲相続)、合計8名
遺産の内容
被相続人が不動産賃貸業を営んでいたことから、複数のアパートや駐車場が遺産に含まれている点が本件の特徴でした。
不動産 | アパート3棟、駐車場、その他リゾート物件 |
預貯金 | 7金融機関の預貯金 |
遺言の有無
遺言はありませんでした。
事案の問題点と対応内容
相続人が多数かつ遠方に散在していたこと
本件は、相続人が合計8人と多数であり、その8人が5つのグループに分かれて協議している状況でした。本件は、兄弟相続の上、一部が代襲相続人・数次相続人という状況であり、相続人相互間がほぼ面識がなく、信頼関係が形成できていませんでした。
相続人が多数存在する相続手続は、①相続人間に信頼関係があり手続の中心になる相続人の意見を尊重する方法、②事務処理やこまめな連絡を取り仕切る方が中心になって進める方法ができれば上手く進みますが、その多くは、実働しない相続人から細かな意見が出たり、仕事等により十分な時間を事務処理や連絡に避けず手続が停滞して相続人間で不和が生じるといった状況になり、法定相続分で分割するということでは全員の意見が一致しているのに、相続手続は進まないという現象が起きます。
本件も正にこのような状況に陥っていました。
弊所が、依頼者に交渉経緯を確認したところ、相続人間から様々な意見が出て方針が二転三転していることが判明しました。
そこで、弊所から、各相続人に対し、受任通知と同時に遺産分割案を提示し、一定期間内に全員の了承が得られない場合は直ちに遺産分割調停に移行し、調停において話し合いを行う旨、通知しました。
その後、遺産分割協議は、調停に移行し、調停裁判所を介して、問題を順次解決し、約2年の協議期間を経て調停が成立しました(ただし、途中に新型コロナの影響による中断期間が含まれます)。
収益不動産も遠方に複数存在しており、売却手続をリードするものが欠けていたこと
本件の遺産には、収益不動産(主にアパート)が含まれており、これらの遺産は売却して金銭で分割することになっていましたが、収益不動産の所在地である関西地区に住んでいる相続人がおらず、全員が遠方に住んでいたため、売却の手続をリードする相続人がいませんでした。
遺産共有の不動産を売却するのは、売買契約や代金決済に全相続人の関与が必要になり、事務連絡や各種手続が非常に煩雑になります。このような手続を不動産の売却に不慣れな上に、遠方に住んでいる相続人が処理することはほぼ不可能でした。
そこで、遺産分割調停において、不動産の売却方法などの大枠について協議し、合意を取り付けた上で、事務連絡は弊所の弁護士から各相続人に一括して行うこと、そのための連絡方法も統一することとしました。
以上の方法で、各種事務連絡等の負担が軽減され、調停進行中に不動産の売却を実現することができました。
弁護士小池のコメント
本件は当事者の認識では「揉めていない」のに全く遺産分割が進まない典型的な事案でした。
相続手続では、遺産の分け方に関心が集中し、この点の意見が一致すれば、問題が解決したかのように感じる方が多くいますが、決まった遺産分割の内容を実現するための手続が非常に煩雑です。
本件では、特定の相続人が相続手続を主に担っていましたが、これに対し他の相続人は自分の都合や意見を言うばかりで、自ら手続の負担を負うことを拒んだことで、相続人の間で関係が悪化し、更に意見が合わなくなるという悪循環に陥っていました。
相続手続では、「遺産はきっちりもらいたいし意見は色々と言いたいが、面倒な負担は一切したくない」という方が一定数存在します。この様な場合は、当事者間での協議は早々に見切りをつけて、遺産分割調停という場に移行し、各相続人に手続対応に責任感を持たせることが重要になります。
本件は、相続人多数の案件処理の標準的な事例であり、類似事案の参考になると思われますのでご紹介いたします。