共同相続人への相続分譲渡と不動産・預貯金の手続
相続分譲渡をした場合の不動産と預貯金の手続について教えてください
昨年、父がなくなり現在、遺産分割協議中です(相続人は、母、長男、次男の3人、遺産は、不動産と預金2口座です。)。諸事情から、母が相続分を長男である私に譲渡する予定ですが、不動産と預貯金の手続はどうなりますか?
相続分の譲渡をした場合、預貯金の払い戻しには要注意です
相続分の譲渡をした場合、不動産と預貯金の手続は以下のとおりになります。
不動産の手続
相続分の譲渡を受けた場合、相続分を譲り受けた共同相続人は、遺産分割未了の場合は、自己の相続分に加え譲り受けた相続分の割合を合算した割合の共有持分について登記することができます。
また、相続分の譲受後、他の共同相続人と遺産分割協議を成立させた場合、当該遺産分割協議に基づき所有権移転登記をすることができます。
不動産に関しては、相続分譲渡証書(自書・実印押印)と印鑑証明書がそろっていれば問題なく登記をすることができます。
以上は、裁判外での手続ですが、調停又は審判がなされた場合は、調停調書又は審判書において、相続分譲渡により当事者に変動したこと及び調停成立又は審判時の相続人が確認され、これを前提として分割方法が示されますので問題なく所有権移転登記が可能です。
預貯金の手続
預金の手続は、不動産に比べて問題があります。
裁判外で相続分の譲渡が行われた場合、理論上は、相続分を譲りうけた共同相続人は、自己の相続分に加え譲り受けた相続分に相当する預金債権を取得し、金銭債権は遺産分割を行わなくとも個別に行使可能ですので、預金の解約・払い戻しが行えることになります。
しかし、金融機関の実務では、相続分譲渡を理由として相続分を譲り受けた共同相続人が預金の支払いを求めても拒絶されることがほとんどです(共同相続人全員の同意書の提出を求められます。)。相続分譲渡が有効になされたか否かの判断がし難いため、金融機関のリスク回避のためにこのような運用がなされているようです(類似の取り扱いとして自筆証書遺言による預金の解約・払戻しに際して、全相続人の同意書の提出を求められるという運用があります。)。
相続分譲渡そのものに対する金融機関の評価が上記のようなものであることから、相続分譲渡を前提として行った遺産分割協議に基づく預金の解約・払戻しについてもおおむね同様の運用がなされているようです。
このような運用を考慮に入れずに裁判外で相続分譲渡、これを前提とする遺産分割協議を行うと、いざ預金を解約・払戻ししようとしたときに拒絶されるという憂き目にあいます。
では、どうすればよいかということですが、対策は二つ考えられます。
第1の方法は、金融機関を被告として預金返還請求訴訟を提起して勝訴判決を取得し、これに基づいて預金の支払いを受ける方法です。
第2の方法は、遺産分割調停を申し立て、調停条項で相続分譲渡により持分割合が変動したことを確認してもらうという方法です。
前者の方法は、共同相続人間で遺産分割協議が成立しており、調停を申し立てる余地がない場合に利用します。他方、相続分譲渡を受けたものの遺産分割協議は成立していない場合は(裁判外での協議成立が困難)、遺産分割調停において相続分譲渡の確認をしてもらえばひと手間で済みますので、この方法が妥当でしょう。