相続分譲渡と相続債務
相続分を譲渡した場合、相続債務を支払う必要はなりなりますか
先日、父が亡くなり相続が開始しました。遺産を調べたところ、かなりの借金があるため、相続を放棄しようとしたところ、弟から相続分を譲渡して欲しいと言われました。相続分の譲渡により相続債務を支払う必要はなくなりますか?
相続分を譲渡しても債権者からの請求には応じざるを得ません
相続分の譲渡とは、「積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分」の譲渡であるとされており、相続債務も相続分譲渡の対象になります。したがって、相続分譲渡が行われた場合、法定相続分に応じた相続債務も譲渡人から譲受人に移転することになります。
もっとも、上記のような相続債務が移転するとの効果は、譲渡人と譲受人の間のものに過ぎませんので、債権者に対しては相続債務が移転したとの効果主張することができません。
そうすると、ご相談者が相続分譲渡をしたとしても、債権者との関係で相続債務を支払う必要がなくなるということにはなりません。
では、どのような場合に問題が顕在化するのかということですが、本件では、相続債務が存在することを前提に弟さんが相続分譲渡を求めており、かつ、相談者と弟さんの間では相続債務は移転するので、当面は弟さんが譲り受けた相続債務を支払っていくと思われます。相続債務問題が顕在化するのは、弟さんが相続債務の支払をできなくなった場合です。この場合は、債権者は法定相続分に基づいて相談者に請求することになります。
実際の相続事案では、このようなリスクが認識されないまま、相続分譲渡がなされていることが多々有りますが、相続債務が多額の場合などは、相続分譲渡を利用するか否かは慎重に判断するべきであると言えます。
参考裁判例 最判平成13年7月10日民集55巻5号955頁
共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、譲受人は従前から有していた相続分と新たに取得した相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割に加わることとなり、分割が実行されれば、その結果に従って相続開始の時にさかのぼって被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになる。このように、相続分の譲受人たる共同相続人の遺産分割前における地位は、持分割合の数値が異なるだけで、相続によって取得した地位と本質的に異なるものではない。そして、遺産分割がされるまでの間は、共同相続人がそれぞれの持分割合により相続財産を共有することになるところ、上記相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。