相続人ではない者が参加して成立した遺産分割協議の効力

相続人ではないものが相続人として遺産分割協議に加わって、合意が成立した場合、その遺産分割協議の効力はどうなりますか

昨年、5年前、父が亡くなり、翌年、父と養子縁組をしていた兄の妻も含めて、遺産分割協議が成立しました。相続人は、兄、兄の妻、私の3人です。しかし、私は、兄の妻が父と養子縁組をしたことに納得がいかず、3年前に養子縁組無効確認請求訴訟を起こし、先日、養子縁組を無効とする判決が確定しました。これにより、父の相続に関して行った遺産分割協議に相続人でない兄の妻が加わっていることになりますが、この場合、遺産分割協議の効力はどうなるのでしょうか。

原則的には、相続人ではないものが取得するとされた遺産に関する合意のみが無効になりますが、例外的に遺産分割協議全体が無効になる場合があります。

相続人でないものが加わって遺産分割協議が成立した場合、合意全体の効力を無効とすると、遺産分割協議が有効であることを前提に遺産を処分している相続人などの法的安定性が著しく害されることになり、問題があります。

また、相続人でない者が加わったとしても、本来の相続人が全員加わって合意をしている以上、本来の相続人がなした合意まで当然に無効になるというものでもありません。

そこで、基本的には、相続人でない者がした遺産に関する合意についてのみ無効とするのが妥当であると考えられます。

もっとも、相続人でないものが遺産の重要部分を取得しており、この者が遺産分割協議に加わらなかったら全く異なる合意がされたと予想される場合などにも、一部無効とするとかえって不当な結果になります。そこで、このような場合には、例外的に遺産分割協議全体が無効になると考えられます。

参考裁判例 大阪地裁平成18年2月20日

 5 争点(4)(被告Y2の参加と本件遺産分割協議の効力)について

  (1) 本件遺産分割協議には被告Y2が参加していたところ,その後,亡Aと被告Y2との間の本件養子縁組は無効であることが判決により確定されたことは,前記第2の1(5)のとおりである。そうすると,本件遺産分割協議には,亡Aの共同相続人でない被告Y2が参加していたことになるから,少なくとも被告Y2の遺産取得に係る部分については,本件遺産分割協議は無効ということになる。

 上記に関し,原告らは,相続人でない被告Y2の参加した本件遺産分割協議は,被告Y2の遺産取得に係る部分だけではなく,その全部が無効となると主張する。

  (2) 共同相続人でない者が参加して遺産分割協議が行われた場合であっても,共同相続人の全員が参加して当該協議が行われたものと認められる以上,直ちに当該協議の全部について瑕疵があるということはできないのであって,むしろ,共同相続人でない者に分配された相続財産のみを未分割の財産として再分割すれば足りるとするのが,当該協議に参加した者の通常の意思に合致するとみられ,また,法律関係の安定性や取引安全の保護の観点からすると,いったん遺産分割協議が成立し,これを前提とする相続財産の処分等がされた後に当該協議の効力を常に全面的に否定することは,できる限り避けるのが相当である。

 これらのことを考慮すると,共同相続人でない者が参加して行われた遺産分割協議は,原則として,当該共同相続人でない者の遺産取得に係る部分に限って無効となるのであり,ただ,当該共同相続人でない者が取得するとされた財産の種類や重要性,当該財産が遺産全体の中で占める割合その他諸般の事情を考慮して,当該共同相続人でない者が協議に参加しなかったとすれば,当該協議の内容が大きく異なっていたであろうと認められる場合など,当該共同相続人でない者の遺産取得に係る部分に限って無効となると解するときは著しく不当な結果を招き,正義に反する結果となる場合には,当該遺産分割協議の全部が無効となると解するのが相当である。

  (3) そこで,本件遺産分割協議の効力について検討すると,既に認定した事実のほか,証拠(甲1,2の1及び2,甲3,14,乙1の1ないし3,乙33,91の2,被告Y1本人,被告Y2本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

 ア 本件遺産分割協議により,被告Y2が取得した財産は,別紙財産目録1ないし6記載の各不動産及び同目録7記載の受益証券債権である。

 同目録1記載の土地及び同目録2記載の建物は,アパート「C荘」の土地建物であって,本件遺産分割協議により,原告ら及び被告らが各4分の1ずつの持分を取得するものとされている。アパート「C荘」は,賃貸物件であり,賃料収入が見込まれるため,亡Aの遺産の中では主要な物件のひとつである。

 一方,同目録3ないし6記載の各土地は,現に利用に供されているわけではない山林であって,評価額もそれほど高くなく,亡Aの遺産の中では相対的に重要度が低い。

 イ 本件遺産分割協議により被告Y2が取得するものとされた財産が亡Aの遺産全体に占める割合は,評価額にして約8%である。

 これに対し,被告Y1,原告X1及び原告X2が取得する財産の取得割合は,それぞれ約58%,約12%及び約22%である。

 ウ 被告Y2が本件遺産分割協議に参加したのは,被告らが亡Aの意思に基づかずに本件養子縁組の届出をしたためであり,本件遺産分割協議に瑕疵が存する結果を招いたことについての責任は,原告らにはなく,もっぱら被告らにある。

 エ 本件訴訟の提起は,本件遺産分割協議の成立から10年以上経過した後にされている。もっとも,原告らが本件養子縁組の届出書の写しを入手し,その効力に疑いを抱いたのは,平成12年3月ころのことであり,その後においては,原告らは,同年中に,被告Y2に対し,本件養子縁組の無効確認の訴えを提起し,次いで,平成14年9月に本件養子縁組の無効を確認する判決が確定した後は,同年11月に亡Aの相続財産につき遺産分割の調停を申し立て,同調停申立てを取り下げた後に本件訴訟を提起したのであり,本件養子縁組の効力に疑いを抱いた後は,原告らが,本件遺産分割協議の効力を争わないまま長期間放置していたということはできない。

 オ 被告Y1は,亡Aが死亡するまで同人と同居し,同人が営んでいた酒類販売業を手伝い,同人の死亡後は酒類販売業を継承しており,5000万円以上の亡Aの負債はすべて被告Y1が相続した。

 なお,被告Y1が負担することとなった亡Aの負債については,被告Y1においてすべて支払を終えている。

 カ 本件遺産分割協議から現在に至るまで約14年が経過しており,その間,別紙物件目録1ないし14記載の各不動産については,それぞれ第三者へ所有権が移転している。

  (4) 上記認定の事情に既に認定した事実を併せると,本件遺産分割協議の内容は,被告Y1が亡Aの長男として家業を継承し,それに伴って,亡Aの負債を全額引き受けることを前提に,各相続人が取得する財産及びその評価額の割合が決せられたものであり,また,そうであるからこそ,同被告が本件遺産分割協議のために必要な事務処理一切を原告らから任されて行っていたのであって,被告Y2の取得割合如何とは別に,被告Y1が相当程度に大きな割合で遺産を取得することには,合理的な理由があったものと認められる。また,被告Y2が取得するとされた財産の割合は,遺産全体の約8%に過ぎない上,上記財産のうち主要な物件であるアパート「C荘」の土地建物については,受益証券債権と同様に,被告Y2単独ではなく,いずれも原告ら及び被告ら全員で均等に分割することとされたのであって,原告らや被告Y1が取得する他の遺産との関係を考慮して分割が決められたものではないと認められ,被告Y2が取得するとされた他の不動産は相対的に重要度が低いと認められるから,被告Y2に対する遺産の分割が,本件遺産分割協議の内容全体に与えた影響は,大きいとはいえない。そうすると,たとえ被告Y2が本件遺産分割協議に参加していなかったとしても,原告ら及び被告Y1の取得する財産の内容及びその取得割合に大きな相違があったとまで認めるには足りないというべきである。

 さらに,被告Y1が亡Aから相続した負債を既に全額弁済していることや,本件遺産分割協議から現在までの経過年数,亡Aの相続財産のうち,別紙物件目録1ないし14記載の各不動産が既に第三者へ処分されていることなどの事情を考慮すると,これらの法律関係を覆すことにより法的安定性が大きく害される結果を生じることも無視することができない。

 上記の諸点に照らすと,本件遺産分割協議に瑕疵が存する結果を招いたことについての責任がもっぱら被告らにあることなどの事情を考慮に入れても,本件遺産分割協議の全部を無効とするのでなければ,著しく不当な結果を招き,正義に反する結果となるとまで認めることはできない。

  (5) 以上のとおり,本件遺産分割協議は,被告Y2の遺産取得に係る部分のみが無効となると解するのが相当であって,その全部が無効であるとの原告らの主張は採用することができない。

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