不動産の相続の相談
1.不動産の相続に関する『よくある相談』
弁護士法人Boleroには日々相続に関する相談が持ち込まれています。事件は一つとして同じものはない…のかもしれませんが、数多くの相談を受けていると、『よくある相談』も見えてきます。以下では、不動産の相続に関する『よくある相談』をご紹介します。
- 不動産の評価額をどのように決めていいか分からない
- マンション・テナントなどの収益不動産があるが、それぞれに金融機関からの借入があり、抵当権も設定されている
- 複数の不動産に共同抵当が設定されている
- 収益不動産の収支が不明である(資料を開示してもらえない)
- 収益不動産と併せて借入も承継するので、少額の代償金しか支払えないと言われているがおかしいのではないか
- 相続税の申告・納税の期限までに話合いが纏まりそうもないがどうしたらいいのか
2.不動産の相続とは?
不動産の相続とは、遺産分割や遺留分請求のように法律上のカテゴリーではなく、相続する財産に不動産が含まれる場合を指しています。不動産が遺産に含まれることは珍しくありませんが、多数の不動産が遺産に含まれている場合、その処理は各段に難しくなってきます。この場合、一般的な相続とは異なる知識・経験が必要になってきます。
3.不動産の相続が解決するまでの流れ
4.サービス内容‐弁護士に依頼するメリット‐
不動産の相続の場合、一般的な遺産分割・遺留分と同様に、①相続人・遺産の調査→②遺産分割協議・遺留分の交渉→③相続税申告・不動産登記・預貯金の解約などの遺産分割の実行・遺留分の回収という作業が必要になります。弁護士に依頼するメリットは、これらの作業を全て弁護士が代理して処理するため、自分で対応する必要がないということです(なお、登記・相続税申告はそれぞれ司法書士・税理士を手配します)。
相続人・遺産の調査は、亡くなった方を起点にして戸籍を調査して相続人を確定する作業(相続人調査)と不動産の登記・預貯金の残高などの調査(遺産調査)があります。相続人の調査で戸籍を追って行く作業は地味な作業の繰り返しで結構時間がかかります。また、遺産に不動産がある場合は、その評価額についても調査しておく必要があります。一つ一つの作業は難しいことはありませんが、調査事項が多くなるとかなりの負担になってきます。
弁護士に依頼した場合、これらの調査は弁護士が行うため、原則、依頼者の方が事務的な作業で煩わされることはありません。
不動産の相続の場合、遺産分割・遺留分請求に共通する重要論点として、不動産の評価があります。坪単価が高い立地だと評価の仕方で数千万から億単位で違いが生じるため、非常に影響の大きい論点になります。
また、遺産分割の場合、当該不動産に関する借入金(融資)や賃借人との関係の処理も必要になってきます。遺産分割が纏まった場合、最終的な処理として相続税の修正申告・更正の請求、不動産の登記も必要になってくること、その評価額も多額になるため、より緊密に司法書士・税理士とも連携する必要があります。
不動産の相続に関しては、事務処理が楽になる・精神的な負担が軽減されるというレベルではなく、知識・経験が十分な弁護士に依頼しないと適切な処理ができないと考えてください。
相続税申告・不動産登記・預貯金の解約などの遺産分割の実行は大量の事務作業・事務連絡との闘いです。相続税申告は税理士、不動産登記は司法書士、預貯金の解約は各金融機関にそれぞれ問合せをし、必要書類の準備、手続の確認をする必要があります。また金融機関の相続手続は平日に窓口に出向くことになるため、時間を確保することが難しい場合が多いです。税理士・司法書士の知り合いがいない場合はそもそも、適任者の税理士・司法書士を探すことから始めることになります。
弁護士に依頼した場合は、弁護士が適任者の税理士・司法書士を確保した上で、弁護士が窓口になって、相続税申告・不動産登記を進めるのでご本人の事務処理の負担は軽減されます。また、金融機関における預貯金解約は弁護士が代理して行うため、ご本人が銀行の窓口を訪れる必要はありません。
このように、不動産の相続を弁護士に依頼した場合、専門的な知識経験による的確な処理、事務処理負担の軽減といったメリットがあります。特に不動産を多数含む相続では、遺産規模が大きくなり、多様な利害関係人との調整が必要になるため事務処理面の負担、精神的なストレスも大きくなります。弁護士に依頼するか否かはこの辺りの要素を踏まえてご検討いただくと良いと思います。
5.弁護士の選び方
ご相談時に結構よく質問を受けるのが『弁護士の選び方』です。『今、目の前にいる弁護士を選ぶのがいいですよ』という答えが出そうになりますが、そういう訳にもいかないため、何点か弁護士選びの基準になるような事項をお伝えしています。
弁護士に事件処理を依頼すると、①依頼者と弁護士で打ち合わせを行い(コミュニケーション)、②打合せの内容を踏まえて弁護士が事件処理を進めることになります。そのため、弁護士が相続案件に関する一定水準以上の法的な知識・実務経験を有していることが必要です。常時複数の相続案件を処理している弁護士が良いと思います。相続案件は珍しい案件ではないのですが、案件数はそれほど多くないため経験が少ない弁護士もいるので注意が必要です。また、①の打合せは要するに依頼者と弁護士のコミュニケーションですので、話がしやすい弁護士を選んだ方が良いでしょう。弁護士が様々な角度から案件についての質問をすること、依頼者の話を掘り下げて聴取しつつも、話が脱線した場合は重要な事項にフォーカスして話をしてくれる場合は、良い弁護士と言えると思います。なお、そもそもの話ですが、法的な知識やコミュニケーション以前の問題として、面談した感触でウマが合わない場合は依頼を見合わせてください。依頼者と弁護士も人間同士の関係ですので、ウマが合わなければ、いずれ関係は破綻します。
6.Q&A‐よくある質問‐
Q1 遺産にアパート・マンション・テナント、駐車場などいろいろな不動産が含まれていますが、どのように評価するのでしょうか?
A 不動産の評価方法は、その不動産の利用状況等により、様々な手法が存在します。アパート・マンションのような収益不動産の場合は、その収益性に着目した収益還元法が取られることが多いと思われますが、空室が多いアパートや駐車場の場合は、更地価格をベースに建物の解体費用を控除するなどの処理をすることもあります。
Q2 遺産分割で紛糾しており、遺産分割調停を申し立てることになりそうです。この場合、不動産の評価はどのように決めるのでしょうか?
A 裁判所に鑑定人(不動産鑑定士)を選任してもらい、鑑定意見を取得することになります。もっとも、交渉段階ではこの方法は使えないこと、個人的に鑑定士に依頼して鑑定書を作成しても、裁判手続で争われた場合は、再度、裁判所に鑑定人を選任してもらうことになり、費用が二回かかってしまいます。
そこで、交渉段階や調停の初期段階では、不動産業者の査定・代理人弁護士が簡易に評価額を算定するなどの方法で評価額を主張し、各当事者の主張する評価額を基礎として交渉を進め、合意により評価額を定めるという方法が採られています。合意ができない不動産については、鑑定人による鑑定評価が行われることになります。
Q3 どうしても相続したい不動産があります。遺産分割調停・審判では、不動産の取得者はどのような基準で決められるのでしょうか?
A 遺産分割において、誰にどの財産を取得させるべきかは、当事者の希望、当該不動産の利用状況、管理状況等を総合的に考慮して判断します。また、当該不動産を取得することにより、相続分を超える不動産を取得する場合は、相続分の超過額を金銭で他の相続人に支払う必要があります(代償金の支払い)。この場合、不動産の取得者が代償金を支払う資力を有することが大前提になります。
Q4 遺産分割が完了しない期間の賃料や不動産の管理はどのように行うのでしょうか?
A 遺産分割が完了しない期間の遺産は、未分割という状態であり、相続人間で法定相続分(遺言により相続分が定められた場合は指定相続分)で共有されています(この状態を遺産共有といいます)。そして、賃料は遺産共有の状態にある財産から発生するため、共有割合により各相続人に帰属することになります。各相続人に帰属した賃料は、理論上は、個別に権利行使可能ですが、支払いをする賃借人との関係を考慮すると、現実的にはそうもいきません。そのため、実際は、相続人の代表者がまとめて受領して分配する、管理会社が一括して預かるなどの処理がされています。
不動産の管理(修繕、契約更新など)は、共有持分の多数決で決めるため、遺産分割とは別に、相続人間で協議をすることになりますが、相続開始前から管理会社がついている場合は、基本的には管理会社の提案に応じるという処理になることが多い様です。
Q5 不動産の評価額について協議をする際、注意することはありますか?
A 他のQ&Aでも触れていますが、不動産の評価をする際、固定資産評価額や相続税申告評価額を提案された場合は慎重に検討し、場合によっては弁護士に相談してください。遺産分割・遺留分問わず、取得額が大きく変動する場合があります。
また、不動産が複数ある場合、遺産規模が大きくなる傾向があり、それに伴い意見の対立が熾烈になります。このような場合、最終的に評価額の問題を不動産鑑定により解決できるように、事前に鑑定費用の工面をしておくことが重要になります。相手の意見に納得はできないが、鑑定費用が準備できないため妥協せざるを得ないということでは準備不足と言わざるを得ません。
Q6 不動産の相続特有の問題・注意点などはありますか?
A 不動産の相続特有の注意の一つが評価額の算定であることは6-1で触れたとおりですが、この外にも当該不動産に利害関係を有する第三者との問題があります。例えば、収益不動産であれば、賃借人から預かっている敷金・保証金の問題、賃貸借関係の承継問題があります。土地そのものに着目しても、隣地所有者との境界の問題・建物等の越境の問題など、不動産に関連する法律問題が出てきます。これらの問題をスルーして遺産分割の大枠を固めても、派生した問題で紛糾してしまい、遺産分割本体の話し合いも頓挫することがあります。もちろん、派生する問題のウエイトが極めて軽いのであれば、遺産分割本体を優先すべきす。不動産の相続では、本体の遺産分割と派生する問題の双方を視野に入れながら、協議をすすめる必要があることに注意してください。